2015年10月13日火曜日

キングスマン Harry Hart 考 孤高の騎士道の裏に秘めた哀しみ

公開済みになったので、もうこれで何言ってもいいキングスマン。
まずはコリン・ファース演じるハリーから始めるのが筋ですよね♪
(そーいえばこの写真はピンキーリングの話でも出してました。でも好きだから再度上げていいわよね♪)




2年前にダブルのスーツ姿のコリン・ファースがあまりにも素敵で…というところから始まったわがオブセッション。
去年後半あたりから、トレーラー映像も出るや否やむさぼるかのように追っかけてましたが、それでも6月にBD入手でみた映画はあまりにも期待以上のモノでした。そして劇場公開となり、大画面が登場すると、もう中毒です。

言うまでもなく私がこの映画の中で一番好きなシーンで惚れているのはフリーバードをバックに大殺戮を行うハリーの姿です。終盤の、右へ左へ前へ後ろへと上半身をふりまわす度に一人ずつなぎ倒していく、その動きの美しさに特にもう、このシーンが実は大変なことが起きて血みどろだとか、そんなことどーでも良くふっとんでしまいます。あの優雅な『舞』の前には!


(だいたいハリーが皆殺しにした人たちだってそもそもそんな善人でもなさそうだしね)  ちなみにここでの選曲がフリーバードなわけのうんちくは映画評論家の町山氏が述べておられます。






コリン・ファースの声がステキ♡と今まで特に思ったことはなかったのですが、
今回、聴感覚人間の中枢神経もずいぶんと刺激されてしまいました。

まぁ、見事なまでのクイーンスイングリッシュで、構文的で独特の抑揚のある話し方ですが、私がゾクゾクしてしまったのはまずマークハミルの耳をつかんでるところ。
バレンタインもリピートしてた”My colleague died.” のあとですね。 ハリーの"you saw how well trained he was.  I suggest you tell me who kidnapped you and why they let you go." let you go の言い方と響きがとっても好き♡ 

このシーンのハリーの話し方の抑揚はなぜか全編の中でも一番ぞくぞくします。
この後続く For Christ sake, I barely touched you. も好きです。
ハリーの語りで深いいお話としてもっと素敵な部分はありますが、ここの音の響きはなぜか中枢神経にまで届いてしまった感じでした。 これって私だけかしらん?
ちなみにこのシーンはBDのメイキングの中に含まれていますが、セリフが当初より少し変わったようです。メイキングの中では↑のWhy they let you go は含まれてませんでした。 ヴォーン監督、セリフもどんどん改善というか変えていくたちなのか、メイキングのセリフが本編で変わっているのは結構ほかにもあります。

かの教会シーン↑。暴れだす寸前のおばちゃんとの会話。Hail Satanも大好き。おばちゃんに通せんぼをされて、子供に「ほら、私はこんなにわるいひとなんだよーこわいでしょ?だから通してね」とでもいうかのように笑みを湛えて、で悪とされてそうなものを整然と並べてしらっと通り抜けようとする。

なんか可愛いですよね。この顔、ちょっといたずらっ子ぽく、それでも紳士の佇まい。
脚本家ジェイン女史が素晴らしいのでしょうけど、よくぞこんなセリフ、ちゃんとこのヘイトグループのお説教で悪とされているものばかりうまく並べ立てたなぁ・・・。
I am a Catholic whore currently enjoying a congress out of wedlock, with my black Jewish boyfriend, who works at a military abortion clinic.
(直訳:私は軍の中絶クリニックに勤める黒人のユダヤ教徒の彼氏との不倫の関係に溺れている、神を裏切った不届きな下僕なのです。)

さて、ここからが本題。

映画の中でハリーは目で見れる限り、どういう人生を歩んできたのか、全く描かれてません。キングスマンとして誰も知ることない自分の善行を同日の新聞の一面記事を壁に貼り(几帳面なんだろうな)こざっぱりとした趣味の良いインテリアの素敵な家には家族の影はありません。
説明がないのでミステリアスで余計に想像をかきたてられ、より魅力的なのは確かでそれをヴォーン監督狙ったかもしれません。

キングスマン眼鏡をほとんどかけているせいで、表情が隠されてはいますが(表情を相手に隠すのも目的なのかもしれませんね、通信や記録のためだけでなく) 眼鏡をかけていないハリーはいつもどこか哀しみを湛えた表情。



「紳士とは」「キングスマンとは」と自身も戒め、自己犠牲をしてても正義のために尽くす事を考えているハリーは、自分にとても厳しく生きてきたのだと思う。その象徴のようにトイレに鎮座するミスターピックル。

「これがミスターピックルだ」で終わってしまった劇場公開の字幕、もう犯罪級の字幕省略です。あり得ない。続きが出てくると思ったのに数秒間そのままの字幕に驚きました。ハリーのセリフは続いているってのに。


ハリーはキングスマンエージェントになるために、(エグジーの言う)『たかが仕事』を得るために罪もない犬を撃つという、正義にまったく反したことをした自分のエゴを戒めようとしています。ミスターピックルが天寿を全うしても、「仕事を得たい」という欲のために犬を犠牲にしようとした自分を忘れないために、はく製にして、きっと本来なら、誰でも一番リラックスしてをほっと気を抜く場所のはずのトイレにわざわざ飾ってるのです。日々そのことを忘れないために。(まぁ、犬のはく製堂々と玄関に飾られてもまわりが嫌だと思うけど)

”Mr. Pickle reminds me of that every time I take shit."
あのシーンで大事なことはハリーが撃った犬がミスターピックルなことではなく、ハリーがずっと自分を戒めていること。エージェントになってからずっと。そしてハリーは犬を犠牲にしてでも得ようとした仕事で、犬を犠牲をするに値い得る善行を行うべしと自分を質し続けています。ハリーは自分に多くを課し、その中で思い通りにならなかったこと、やりきれなかった事を忘れません。紳士然と冷静にしらッと振る舞うその仮面の奥は実は熱い正義漢で、かなりの葛藤も抱え続けてきたと思われます。

なのでいうまでもなく、冒頭、エグジー父を死なせてしまったことはこの上なく大きな呵責となっています。あってはならない事件だったのです。

どういうきっかけでかは解りませんが、自分が連れてきた若い候補生を死なせてしまったのですから。ハリーが候補生になどに連れてこなければ彼はハリーのために命を落とすこともなかったのだし。

エグジー父は手りゅう弾に向かおうとしたハリーを突き飛ばし自分が覆いかぶさって死んでいます。エグジー父にとってハリーは自分の体を張って、命を犠牲にしてでも守りたいほどに忠誠を誓った相手だったのです。なので、エグジー父はある意味望んで犠牲になりました。もう、アメリカ大統領付SP級の忠誠心です。エグジー父がどれだけハリーに心酔、崇拝していたかも知れるというものです。無邪気に憧れの目を向けるエグジーの比ではないと思います。

ですが、それだけ自分を慕ってくれていた前途ある若者を自分のミスで、死なせてしまったハリーの自責の念、苦悩は想像するに余りあります。(それを平民を連れてきたお前の実験の失敗などとチクチク言うアーサーってほんと嫌な奴です。大ボスの資格なんかないよ、アンタ)

ハリーがエグジーを構うのは、その父に恩があるから…なんて単純なものではありません。ハリーは贖罪を背負っているのです。 エグジーの境遇に一番心を痛めてるのもハリーです。メンタル入っちゃう母でなく。(余談ですがチラ見した原作コミックの方にはかなりえげつなく、この駄目母が自立せず、息子をしばりつけている旨云々書かれています。原作の方が明らかにより劣悪環境なんですよね)

エグジーが素養ありでも、エグジーをリクルートするのに迷いはあったでしょう。アーサーの厭味は切り返しても、同じ轍は踏みたくないはず。それが正しい行動なのか。ハリーがエグジーを手元に寄せるのはいつも、エグジーが窮地にあるか、または火の中に飛び込もうとしている時。それはただ見ていられないから。

ハリーはエグジーの世話を焼くけどエグジー見ていて辛くないのだろうかと思う。それともハリーには自分の過ちを償えるやり直しだったのだろうか。キングスマン施設に連れて来られて、飛行機その他の装備を見て目を輝かすエグジー。「お前のお父さんも同じ顔していた」って17年前には飛行機に目を輝かす若者をただほほえましく思っただけだろうけど、今ではそれはエグジー父の死につながる記憶のはず。そしてエグジーの目も当てられない不遇にも直結する辛い記憶。

犬を撃てずに脱落したエグジーを再確保したあとのケンカは泣けてきます。母親を守りきれない自分に感情的になっているエグジーが悪いわけではないけれど、「親父も剥製にしてあるのか」と売り言葉に買い言葉的に言ったエグジーは殴りたくなった。

Can’t you see everything I've done is about trying to repay him?
エグジーに責められて思わず普段なら言わなそうな言葉を口に出してしまうハリー。 エグジーにはきっと責める権利はあるのです。けど、ハリーの哀し気な目があまりにもせつなくこっちが泣けてくる。「あんたのパパだってそんな事あんたに言ってもらいたいなんて思ってないよ!」と胸ぐらつかんで言ってやりたい気分に・・・。

孤高のハリーを理解し、黙って添ってくれているのはマーリンとキングスマンテイラーショップ番頭(?)の白髪の紳士くらいだろうと思います。

マーリンはハリーの想いに何も言わず寄り添い(遅刻云々のお小言はともかく)、察している人。(余談ですが、コリン・ファースとマーク・ストロングは裏切りのサーカスもそんな感じのコンビでした。なんか似合ってます。目立たなかったけど) 訓練生を躾けているマーリンは訓練生の言動もすべてモニターしてきている。その昔エグジー父が優秀だったことも、どのように死んだかも全部その場で見ている。(スコア表持って付けてたくらいだし)。そして息子のエグジーが金持ちのぼんぼん達よりも、よっぽど機転が利きかつ賢く、弱きを助ける潔さも備えた騎士らしい行動をとれることも見ている。

エグジーが最終候補生のふたりにロキシーと残った時、「エグジー、お前の父親もここまで来たのを知っておくべきだ」とマーリン言ったときにエグジーの隣でそっと視線を床に落とすハリー。ハリーの贖罪は終わらない。












私はキングスマンテーラーの番頭さんも好き!代々世界中の有力者にお仕えしてきたのだから、この人の洞察力も空気の読み方も並大抵ではないでしょう。ハリーの人柄も十二分に見抜いていいて、またおそらくハリーがエグジー父を連れてきた日から見ていて、「フィッティングルーム3で待つ」と言われたとたん、エグジーが特別な人間であることを察したと思われる、すべてを含んだような柔らかい笑みが素敵。
もしかしたらハリーが候補生として連れられてきた日からも知っている人なのかもしれない。(私はこの番頭さんがアーサー倒した後のエグジーを信頼して施設まで通してくれたと思ってます。セキュリティ考えたらフツーはあそこまで入れないもの。店の奥にあるだけのダイニングはともかく)

ハリーは続編で戻って来るのがほぼ確定ですが(それはとてもうれしいの!)、前日譚ではなさそうなので、どうするんだろう?というのは、どのように復活させるか、だけでなく、あの大殺戮を本人にどう受け止めさせるの~?という意味でもどうなるのだろう…と思っています。
あぁ、でも下手したら、これから3年近く待つかもしれないのですね。気が遠くなりそう・・・。









2 件のコメント:

  1. タロン・エジャトンの予定が決まりましたね。リブート「ロビンフッド」は延期され、「2」の撮影に影響はなくなったようです。

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    1. Asteroid Cowboy さん!
      そうなのです。朝見ててびっくり!
      これ、FoxとLionsgateのチカラ関係なのかしらん?にしてもタロン君引っ張りだこになっちゃって。すごいわ。

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