2011年8月18日木曜日

人間が、人間でなくなっていくプロセス・・・。 Hunger

先日、BSで「麦の穂を揺らす風」をやっていた。

映画の美しさと悲痛さはさておき(こっちでレビュー書いてます)、リアム・カニンガムLiam Cunninghamをもっと見たいっという気になり、以前に買ってまだ観ていない、HungerのDVDを思い切って持ち出してきた。なんでまだ観ていなかったのか? 

音が取りづらいアイルランド映画なんだもん。気合い入れなきゃ見れない!とずっと思っていたけど、セリフは限りなくミニマム。 話題になった22分1テイクのシーンを除いて。 気にする必要はなかったのね。

この映画、かなりずず~んと落ち込んでしまいました。 ボビー・サンズという実在のIRA活動家がハンストで死ぬまでの話なのですが・・・静かに淡々と話が進むものの、展開がちょっと、想像を絶していて、全く白紙の状態で観ると何が起こっているのか解らないかもしれません。

凄過ぎて、書くのも憚れるのだけど、そういうことだとはまさか思わないようなことが起こっていて…。 これ、映画館でみたら、キツイと思う。 途中でやめようかと何度リモコンに手を伸ばしたか。 それでも、静かに流れる画面はそうだと知らなければ、ビジュアル的に不思議と美しくもある。目を覆いたくいなるような、信じたくない話。
人間が人間でなくなっていくプロセス・・・・のような話である。

リアム見たさのミーハーで見始めただけには、重すぎた。 茫然自失というか、絶句。

冒頭は刑務所の看守の朝から。 ラジオがかかっているが音が小さく聞きづらい。(字幕があってよかった!) 静かに朝が始まり、家を出る彼は車の下をチェック。まるで、キーを指してロックを外すのと同じのようだ。

若いIRAメンバーが刑務所に送られてくる。 房にはすでに先輩がいる。やたら汚い部屋だ。昔の刑務所はやっぱ劣悪? 若いメンバーの視線は汚れた壁をずっと追っている。そこで気が付いた。 IRAは政治的権利剥奪に対して、自分の排泄物を壁に塗りたくり、衛生上、問題ありの状況に自らを落とし、抗議した。 そんな話を何かで読んだような・・・・。やたら汚い壁は、壁一面、排泄物が塗ってあったのだ。 

気付かなきゃよかった!と思った時にはもう遅い。 
そんな部屋に新入りとして入り、他人が汚物が塗りたくった部屋で共に生活する? これはひどい。
マカヴェイエフのスイートムービー以上に耐えられない光景だ。

汚物をため込んで合図で一斉にドアの下から通路へ放出。このような一連の行動に人間としての尊厳なんて微塵もない。 嫌悪感しか残らない。 なぜ政治的抗議としてこのような行動になるのかが理解できない。 投獄されて、できることは他に何もないから?BGMもほとんどなく、囚人たちの会話も少ない。静かに、耐えがたい光景を見せながら映画は進む。 

一転して、フル武装した警官隊登場。 号令で2列に整列。次の号令で警棒と盾をガンガン打ち鳴らす。 
いったい何ごと!?  さらに号令がかかり、打ち鳴らしが激しくなる。 若い囚人が素っ裸で連れ出され、警官隊の前に投げ出される。 すると警官隊が一斉に警棒でこの囚人を殴るのだ。 

え~っ!!  なぜ!? ただのリンチじゃないか! いったい何が起こっているの? 新入りらしい、若い警官の一人が暴力に加担できず、壁の後ろに隠れて泣いている。  キミは正しいよ。 こんなこと有り得ないよね。

薄汚れたボビー・サンズ登場。 演じるのはマイケル・ファスベンダー(Michael Fassbender) 暴れまくり、ぶん殴られながら、バスタブに沈められ、掃除用のモップで擦って洗われて、こぎれいな部屋に移される。 キレて、部屋をめちゃくちゃにぶっ壊す、ボビー。 汚い部屋からきれいな部屋への移動なのに? イギリス側の政治的パフォーマンスだったから?

汚れた部屋に清掃部隊が来る。これも防護マスクを被りフル装備だ。高圧洗浄ホース持参。 壁には年輪だか、ダーツの的だか、アートよろしく、壁一面に汚物が塗りたくられている。
茫然とする清掃員。気を取り直して、高圧ホースを吹き付ける。 それにしても・・・・。

ボビー・サンズが食堂のような部屋に一人でいる。 そこへ神父登場。この神父が私の目当てのリアム・カニンガム。 
例の1テイク20分一息に・・・のシーンである。テンポが一気に変わる。 強いアイルランド訛りの早口の会話のやり取り。 
向き合った二人を横からのショットだ。 

それまでは、どこか現実感がなく、薬の幻想じゃないかと思うような感じだが、このシーンだけは目前のことを見ている感じだ(というか目が覚める感じ?)。 よもやま話に続いて、ボビーがハンストに入ること、ボビーはなぜIRAとして政治活動をするのか(答えが一つのアイルランドなのが何とも・・・)、ハンストで、主張が通るとつもりなのか、最初から死ぬつもりなのではないのか…等々。

普通の人並みの暮らしをしたいと思わないのか、普通の暮らしなどもうできないだろうと言う、神父の指摘が的を得ていて(と思う)悲しい。 もう会うこともないと思うけど、と言い残して立ち去る神父。(リアム・カニンガムはやはり迫力だったが、あの表情豊かな目のアップはホンの一瞬だったのでミーハー的には不満である。)

刑務所に戻る。通路にまた汚物が流されている。看守の一人がブリーチを巻き、モップで掃除を始める。通路の端から端まで。 この通路掃除が、またもや、1テイクで延々(数分間かもしれないが)と流される。 
あぁ、このうんざりするような感じ。何も変わることなく、双方この無駄な作業を延々と続けているのだ。これほどこの歴史的に長く、無駄な血を流し続けている戦いと厭世感を端的に表描写しているシーンはない。

ボビーのハンストが始まる。ここからまた静かに画面は流れる。両親が呼ばれ、医師がボビーの状態について説明する。ハンスト(もしくは餓死)ってただやせ細るだけではないのだ。 栄養不足から様々な体の機能や組織が破壊されていく。

やせ細って動けなくなるボビー。床づれであちこちから出血。エイズ患者の様である。 自分で動けなくなり、ベッドのマットの衝撃をへらす敷物を入れたり、骨と皮状態で神経(痛覚)がむき出しになるのか、最後はパジャマすら着れない。毛布も体に当てれない。

そんなボビーの変化だけが静かに流れていく。 とても静かだけど、ザ・フライの科学者が蠅へと変化していく過程と同じくらいの恐怖感を煽られてしまった。
息を引き取る寸前のボビーの見る夢は少年のころ。 美しい緑の林や実った麦畑(Golden Barleyもアイルランドの象徴?)を走り抜けている。
ボビーの死で映画終了。静かなピアノ曲と共にクレジットが流れる。 茫然としてしまった。 どう言ってのいいのかわからない。 


とりあえずDVDに入っているオマケも全部一気に観てしまおうと気を取り直す。
このオマケは群を抜いて充実していました。
撮影時に撮ったと思われるインタビュー。 リアムはインタビューの方が標準的に話してくれるのでありがたい。 それから、カンヌ受賞後に構成されたと思われる、監督のステーヴ・マックイーン、ボビー役のマイケル・ファスベンダー他プロデューサー等2名、それぞれ30分以上のインタビュー。
これ、マイケル・ファスベンダーのファンなら必見!!のプログラムじゃない? 最もX-メンとかのファンには、本体映画のHungerは全く合わないとは思う。 勇気のある方はどうぞってところでしょうか。


ちなみに、リアム・カニンガムが ミュージカル俳優と言うカテゴリーに入るとは知らなかった。 
歌って踊れる人とは何かで読んだ気がするけど。

こんなに映画本体よりも長時間のオマケが充実したDVDも珍しい。
映画が見ていてかなりつらいものなので、出血大サービスしてくれたのかしらね。

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